
俵万智歌集『未来のサイズ』 (2020年・KADOKAWA・1400円) 1987年『サラダ記念日』がベストセラーになり脚光を浴びた俵万智さん。彼女の誕生日は1962年12月31日。私が生まれたのは彼女の丁度10年前(戸籍上は1月ですが)なので、当時、親近感を覚えていました。若い若いと思っていた万智さんも、もう58歳なんですね。 今回の第6歌集は三部に分かれていて、Ⅰはコロナ禍の2020年・Ⅱは石垣島・Ⅲは宮崎での歌という構成です。分かりやすく親しみやすいのは昔のまま。そんな中から何首かご紹介します。
Ⅰ 2020年 P14 長すぎる春休み子に訪れて竹原ピストル久々に聴く P26 詞書き(「夜の街」という街はない) カギカッコはずしてやれば日が暮れてあの街この街みんな夜の街 *知事や政治家などの言う「夜の街」という言葉への違和感が的確に詠まれていて、共感を覚えました。
Ⅱ 2013年~2016年 P52 異様なる広告宣伝費はありて安全よりも安全神話 P55 国、首相、社長、官僚 見殺しの方法ばかり歴史に学ぶ P81 「ただちには」ないってことか戦争も徴兵制も原発事故も P84 健康のためなら死ねるというように平和を守るための戦争 *社会の矛盾や理不尽と向き合わなければやっていけなかった彼女の、その後の人生が反映されている歌群です。今のコロナ禍の世で、ますます社会の不条理を感じる中、どの歌もその通りと思いました。 P62 図書館の閉架の棚から呼び出されネモ船長が子に会いにくる *ネモ船長は『海底二万里』に出てくる潜水艦イーチラス号の艦長。本の歌と息子さんを詠んだ歌もたくさんありました。 P90 ダンボール六十箱に収まった島の暮しに貼るガムテープ
Ⅲ 2016年~2019年 P95 抱きしめて確かめている子のかたち心は皮膚にあるという説 P96 制服は未来のサイズ入学のどの子もどの子も未来着ている P116 『君たちはどう生きるか』を読み終えておまえが生きる平成の先 P125 「短所」見て長所と思う「長所」見て長所と思う母というもの P175 わかりやすい老化と思うことにした「ゆっくり進む病」というなら *我が子や自分を詠むときの万智さんらしさ全開の歌群。かつての自分の気持ちと重なりました。
村上鞆彦句集『遅日の岸』 (2015年・ふらんす堂・2500円) 作者は1979年大分生まれの若手俳人にして、歴史ある「南風」の主宰。 一度目読んだ時は、若い人なのにやたら切字の多い句集(325句中「けり」40句・「かな」43句・「や」33句)だなと思って、第39回俳人協会新人賞受賞というのが、今ひとつピンと来ませんでした。 ところが、先日読み直したところ、静かな表現の中に計算し尽くされたものを感じ、切字の必然性も含め、これは凄い作者だと評価が180度変わりました。じっくり読めば読むほど句の魅力がにじみ出て来て、今やすっかり大ファン。この青春性を含む繊細な味わいに、本書はくり返し読む一冊となりました。 好きな句だらけなので、帯にある「自選十二句」から厳選の四句をご紹介します。 投げ出して足遠くある暮春かな 吊革のしづかな拳梅雨に入る 秋の雲いくつ流れてシャツ乾く 枯蟷螂人間をなつかしく見る

津川絵里子作品集Ⅰ (2013年初版2014年再版・ふらんす堂文庫・1800円) 1968年兵庫県生まれの作者の句集はとても人気があって、なかなか手に入りません。 新しく出た『夜の水平線』も売り切れて、只今再版準備中とのことで、待っています。 ここで紹介する文庫は、入手困難だった単行本二冊を全句収録して、ポケット愛蔵版として出されたものです。先に紹介した村上鞆彦氏と同じ「南風」の方で、一時期一緒に主宰もされていました。 さりげなく詠まれているようだけど深い句!彼女の句は何回読んでも心に届くものがあり、その魅力に惹かれ、ずっとファンでいます。帯から少しだけ紹介します。 『和音』(2006年刊/第30回俳人協会新人賞受賞) 雛このさらはれさうな軽さかな 伯林と書けば遠しや鷗外忌 見えさうな金木犀の香なりけり 『はじまりの樹』(2013年/第1回星野立子賞・第4回田中裕明賞受賞) 籐椅子の腕は水に浮くごとし 秋草に音楽祭の椅子を足す 切り口のざくざく増えて韮にほふ
北大路翼著『加藤楸邨の百句』人間の業と向き合ふ (2020年・ふらんす堂・1500円) 新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」家元。何年か前、松山で夏井いつきさんのイベントがあったとき拝見し、そのユニークさが忘れられなかったのですが、この本もその個性と迫力が感じられる勢いのある文章でした。 加藤楸邨の句を百句挙げて、右ページに句・左ページに解説という形式で読みやすく、解説も力がこもっていて面白いです。巻末の文章「難解だとは言ふけれど」も、筆者がよく学んで来られた跡が見え、考察が興味深かったです。楸邨は私の好きな俳人の一人なのですが、こんなふうに解説されたら、楸邨も満足だろうなと、ワクワクしながら読みました。 楸邨には猫の句がたくさんあるのですが、ここでは「くすぐつたいぞ円空仏に子猫の手」を挙げておきます。
村上鞆彦著『芝不器男の百句』洗練された時間表現 (2018年・ふらんす堂・1500円) 愛媛出身で26歳で亡くなった不器男。大正15年作に私の好きな句が多いと思いました。 巻末の文章「芝不器男論」があり、そこに不器男の切字への全幅の信頼について書かれていて、筆者との共通点を感じました。万葉語を取り入れようとしていたという指摘は、知らないことだったので新鮮でした。 同じふるさとを持つ私は「二十五日仙台につく、みちはるかなる伊予の我が家をおもへば」の詞書きのある「あなたなる夜雨の葛のあなたかな」が一番好きです。

今年はレモンがビックリするほどとれ、お客さんがあるたびに「もらってね」と差し上げました。 それでも残ったレモンはジャムにしてパンを焼くとき練り込んで「レモンパン」にしたり、ざく切りのレモンにハチミツと酢を加えて「レモン酢」を作ったり、ネットに入れてお風呂に浮かべたりと、大いに楽しませてもらいました。 テーマ:オススメの本の紹介 - ジャンル:本・雑誌
|